ソフトコンピューティングによる動脈硬化診断支援システムの開発
ソフトコンピューティング技術を用いて冠動脈の動脈硬化の診断を支援するシステムの開発を行なっております.心臓の冠動脈内にプラークと呼ばれる脂質性の組織が堆積した状態を動脈硬化と呼びます.動脈硬化は心筋梗塞などの心臓病を引き起こす原因となるため,冠動脈内のプラークの状態を診断することは,心臓病の早期予防につながります.冠動脈内の状態を知る方法として冠動脈血管内超音波(Intravascular Ultrasound: IVUS)法があります.我々はIVUS法で観測される超音波信号をソフトコンピューティングの技術を用いて解析し,プラーク内の組織の状態を自動的に診断するシステム開発を行なっております.以下に実験風景や開発中の支援システムの内容をご紹介致します.
1.実験風景
図1は血管内画像を得る実験風景です.実験は宇部市南小串にある医学部で行っております.この実験では,ウサギの血管を用いています. 図2は冠動脈の状態を調べる方法の一つである心臓カテーテル検査で用いられるカテーテルです.カテーテルの先に付けられているのは,プローブと呼ばれる超音波探触子です.プローブは超音波を送受信する機能を持っており,送信された超音波は血管内の組織で反射し,その反射波がプローブに受信されます.反射波の信号は組織性状ごとに異なる信号強度を持ちます.プローブは軸(Flexibleshaft)に添って回転するので,注目している血管内2次元断面の反射波を得ることができます.得られた反射波は,RadioFrequeny(:RF)信号と呼ばれ,血管内組織性状判別を行う際に利用されています.
図1.実験風景
図2.心臓カテーテル
2. Experimental Appearance
図3はウサギの血管内にカテーテルを挿入し,血管内断面図を得ている様子です.
図3.実験風景、その2
3.Classification Result of IVUS Data
血栓によって冠動脈が閉塞した場合は急性心筋梗塞を,狭窄した場合は不安定狭心症を,狭窄していない場合は心筋虚血をそれぞれ引き起こす.急性冠症候群を発症させるような破綻しやすいプラークは,大きな脂質コアと薄い線維性皮膜をもつことが知られている.つまり,プラークが破綻するかどうかは,注目している組織を線維性,もしくは脂質性の組織として判別することに帰着する. 血管内断面図として得られる輝度画像は低解像度であるので,そこから確実な組織性状判別結果を得るのは難しい.したがって,RF信号から精度よく組織性状を判別する手法が求められている.図4は,提案した手法による組織性状判別の結果である.
図4.ソフトコンピューティングによってプラーク内の組織性状を判別した結果
4.Extraction Results
医師は,プラーク内の組織性状判別や,プラークの面積・体積の時間的推移を元に,冠動脈疾患の治療や投与した薬剤等の効果を確認している.ここで,薬剤等の効果を正確に確認するためには,プラークの領域を精度良く抽出する必要がある. しかしながら,血管内超音波法で得られた血管断面画像では,流れる血液中の赤血球によって超音波が散乱することによりスペックルノイズが発生し,組織の境界が不鮮明になるという欠点がある.現在は,この不鮮明な画像に対して,熟練した医師自身が手作業で組織の境界線を引き,プラークの領域を抽出している.さらに,この作業には,多くの時間と手間を必要とし,スペックルノイズが重畳された画像から組織の境界を正確に抽出するためには,多くの知識と経験が必要である. このような,医師の負担を軽減するために,血管の内腔・外腔を少数のシード点を打つことで,得ることができる境界線抽出法を提案している. 図5は,提案した手法による結果である.
図5.ソフトコンピューティングによってプラークの領域を抽出した結果
5.Development Applications
作業に要する時間を軽減し,血管断面画像の解析精度を向上するためには,医師との親和性が高いグラフィカルユーザインターフェース(GUI) が必要となる.図6,7は,作成したGUIの作業画面である.
図6.開発したGUI
図7.開発したGUIを用いた組織性状の判別結果
6.プラークの大きさや形状を把握するための3D画像
血管内部の状態を各方向から確認できるようにしている.また,血管全体も3D画像として表示できる.
図8.超音波信号から血管を3次元画像として表示するシステム開発